ウルトラ怪獣列伝 78 デマゴーグ

 『ウルトラマンダイナ』第27話に登場したデマゴーグは、大人たちが触れることのない子供たちだけの世界が拡大して脅威になったような怪獣だ。

 地球侵略を狙うチェーン星人レフトとチェーン星人ライトはそのために邪魔なウルトラマンダイナ/アスカ・シンを倒そうと、それぞれのやり方で挑戦する。力自慢のライトはアスカのパトロール中に人間の姿で近づいていきなり襲いかかるが、アスカの機転で返り討ちにあってしまう。いっぽう、知略を得意とするレフトは周到な計画を練る。人間に成りすまして(註1)キッズコミュニティという偽会社の社長に収まり、地球の子供たちを集めて彼等に「怪獣コロシアム」という対戦型のゲームを与える。これはネットを通して見知らぬ相手と対戦できるゲームであり、画面の中で自らが怪獣を作り出し、それを相手の怪獣と対戦させるというものだ。このゲーム内で行われたトーナメント戦で優勝したのが太一という少年が作り出した怪獣デマゴーグであった。デマゴーグの優勝を見届けたチェーン星人レフトは太一を洗脳して操り、デマゴーグを実体化させてウルトラマンダイナと実際に戦わせる。つまり、太一少年から見ればいつものようにゲームの画面の中でプレイしているに過ぎないのだが、彼が操作するデマゴーグは既に実体化しており、実際に街中でウルトラマンダイナと戦っている\xA4

里澄\xA3

 チェーン星人レフトが与えた「怪獣コロシアム」という遊び場は既に子供たちの間で一大ブームを巻き起こしており、それをSuper GUTSをはじめとする大人たちは知らない(ただ一人、マイ隊員のみがその存在を知っていた)。劇中に登場する子供たちもトーナメント戦でデマゴーグと対戦して敗れた経験を持つ者ばかりであり、そのためか、デマゴーグの存在に既に愛着を持ってしまっており、実際にそれが実体化するとあろうことかダイナよりもデマゴーグの方を応援してしまう。結局、リョウ隊員にさとされることで現実を直視し、ナカジマ隊員の機転でデマゴーグは子供が操っているのではないかということに思い至って、デマゴーグを操る怪電波を逆探知して太一少年の元にたどりつくことで危機は回避されたが、このストーリーには子供たちと大人たちの認識の違い、それぞれの世界が分かれていることで起こりうるかもしれない危機を語っているように思える。

 現実の世界でもそうだが、子供たちには子供たちの、大人たちには大人たちの、それぞれの世界が並立してある。子供たちの間で起こる流行と大人たちの間で起こるそれはまったくの別物であり、それぞれお互いに対しては干渉しないし知ることもあまりないのが普通だ。我々の子供時代を思い起こしてみればわかるだろう。子供の目から見ると大人たちが話すことは理解出来ないし、なぜあんなにも勉強しろとばかり言われるのか、理不尽な思いに捉われた人も少なくないだろう。いっぽうで、当時自分たちが好きだったもの、小学校のクラスメイトの間で話題になったものなどを親に話して聞かせても親は空返事で頷くだけで話の半分も聞いていないように感じたこともあっただろう。子供と大人では感性も違えば価値観も違う。だから、そのようなすれ違い現象が起こっても不思議ではないし、そうなって当然だとも言いうる。大人たちには大人たちの、子供たちには子供たちの世界があって、それぞれの中で完結してしまって互いに流入し合うということがない。子供であることと大人であることの違いはそれほどに大きいのだ。人間は子供から大人へという成長過程において、思春期という両\xB5

租Ľ併驒詎魴个疹紊濃匐〇魦紊隆鏡④箍礎祐僂鮗里討銅‖茲紡膺佑悗箸覆辰討罎唎里世❶⊄膺佑砲覆辰薪喘爾忙匐,世辰榛△亮\xAB分を忘れてしまうのは、実は危険なことではないか。子供たちの間で何が起こりつつあるのかを見極めることが出来るのは周囲にいる大人のみであり、子供が危険な方向へ走ろうとしたらそれを止めるのが大人の責任というものだろう(註2)。「子供の言うことはわからない」では、それを成すことは出来ないのは間違いない。

 デマゴーグのこの一件はそうした子供たちの中で胚胎した危機を切り取った物語だということも出来る。言ってみればチェーン星人レフトという「悪い大人」に知らぬ間にそそのかされたような格好だが、大人たちが知らない「怪獣コロシアム」というゲームの中で、子供たちの論理によってそれは進行していたのだ。その危機を食い止めたのはウルトラマンダイナではなく、彼の周囲にいるSuper GUTSの隊員たちであり、そうした子供たちを見守り叱りつけることの出来る(註3)「良い大人」の象徴として彼等は描かれている。

 さて、デマゴーグそのものの方に目を移してみると、いかにも子供が考えつきそうな「僕が考えた最強の怪獣」感が満載なのが面白い。両手を巨大化させて相手の攻撃を防ぐデマハンドプロテクション、尻尾の先で相手を貫く「デマゴーグスペシャル」といった技の名称も、スーパー必殺怪獣という肩書きも、いかにも子供が考えました感がありありだ。デマゴーグという名称は本来「扇動的民衆指導者」を意味する言葉であるが(註4)、その名の通り、デマゴーグはゲーム画面を通じて子供たちという民衆を扇動したと言える。その圧倒的なまでの強さは、誰が作ったのか誰が操作しているのかは知らずとも、子供たちの間で一種の伝説になったことであろう。つまりは、デマゴーグはそのようにして、ほんの少しだけゲームに触れたのみという子供たちにまでその名が知れ渡り、彼等の心を自らの方へ引き寄せたのだと言える。

 ここでチェーン星人レフトの方に目を移してみると(註5)、実は地球の子供たちをそそのかした黒幕としての彼こそが「扇動者/デマゴーグ」ではないかと思える。思えるというか、そのものだろう。ただ子供たちに侵略宇宙人としての本当の姿を知られていないだけだ(註6)。アスカの前で本来の姿を現したチェーン星人レフトは実体化して街中に現われたデマゴーグを見るや、「見たまえ。あれが私と子供たちが作り上げた最高傑作だよ」と言い放つ。この「私と子供たち」というところがポイントで、ここには地球の大人たちは存在しない。本来なら地球の子供たちと大人たちが緊密な関係を築き上げねばならないところを、大人たちの無関心につけこんで、異星人であり侵略者である自分が地球の子供たちの関心を奪ってしまったのだ。このような構図が出来上がってしまうということはそれだけ地球の大人たちに隙があったということであろうし、事件が解決してもなお、よりいっそう子供たちと大人たちの関係性の大切さについて再考を促すきっかけとなったに違いない。物語のエンディングでアスカが子供たちと一緒に草野球に興じる場面があるが、このシーンはそうした試みの一環\xA4

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 結局、チェーン星人はレフトもライトも、コントロールを失ったデマゴーグがキッズコミュニティ社屋を押しつぶすことで、その瓦礫の下で息絶えた。一部には強そうに見える宇宙人なのにあっけないという感想も聞かれたが、いつの時代もある意志をもって民衆を扇動しようとする者の最期はあっけない。チェーン星人もその例にもれなかったということであろう。

 大人たちの知らない間に子供たちの間で進行していた恐ろしいもの。それは『ウルトラマンダイナ』という作品全体の明るさの中でやや見えづらくなってはいるが、そうした世代間の断絶とも言いうるテーマを描きえたのは、畢竟ウルトラシリーズが子供向け番組であると認識されているからこそだろう。そういう意味で、デマゴーグの物語は子供向け番組としての使命を正しく認識し、それをよく果たしえたと言えるのではないだろうか。

(註1)チェーン星人のレフトとライトは双子のような存在であり、そのためそれぞれの人間態は一人二役で同一の役者(渡洋史)が演じている。

(註2)余談だが、こうした大人と子供の価値観の違い、起こりうる惨劇を予想したすぐれた文学作品が、三島由紀夫の『午後の曳航』だと思う。ここでの子供たちは小学校高学年から中学生ぐらいの年齢であるので思春期の戸口にさしかかった年齢であり、ここで言う子供たちとはやや意味合いが異なってはいるのだが。

(註3)先述したように、子供たちがダイナではなくデマゴーグの方を応援しているのを見たリョウ隊員は「これはゲームじゃないのよ。目の前で壊されているのはあなたたちが住んでいる街なのよ」と彼等を厳しく叱責している。

(註4)「流布された誤った情報」という意味の「デマ」や「それを意図的に流す者」としての「デマゴギー」は本来の意味からは外れている。そもそも「デマ」という言葉に「嘘」の意味はない。「デマ」の語源は「demos」(民衆)である。恐らくは指導者が民衆を扇動するために偽情報を流した事例から、意味が転用されて当てはめられたものと思われる。

(註5)チェーン星人がレフトとライトに分かれているのに協力し合うことなく、それぞれの行動は別々に行っており、物語の大半はレフトの計画で進行しているのは奇妙に思える点だ。ライトの方が失敗するとレフトが「今度は俺の番だ。黙って見ててくれ」と言うように互いの行動には干渉しないということだろうが、それにしてもライトの存在感の薄さは気になる。本来チェーン星人はスフィアに変るシリーズ後半メインの敵として設定されたのだが、それが変更されて1話のみの登場になってしまったという経緯を持つ。恐らくはその初期設定の名残りでもあろうかと思われる。

(註6)キッズコミュニティ社長明智という名で地球人に変身したその姿は子供たちにも知られている。怪獣トーナメントで優勝した太一少年には、画面を通して激励のメッセージを送っているほどだ。

スーパー必殺怪獣デマゴーグ

身長 68m

体重 7万2千t

出身地 ゲーム空間

能力 デマハンドプロテクション、デマゴーグスペシャ

弱点 レボリウムウェーブ(アタックバージョン)

登場 『ウルトラマンダイナ』第27話「怪獣ゲーム」

双体宇宙人チェーン星人レフト

身長 240cm

体重 170kg

出身地 チェーン星

能力 高い知能、人間に変身

弱点 デマゴーグにビルごと押しつぶされる

登場 『ウルトラマンダイナ』第27話「怪獣ゲーム」

双体宇宙人チェーン星人ライト

身長 240cm

体重 180kg

出身地 チェーン星

能力 エネルギー攻撃が素通り、怪力、人間に変身

弱点 デマゴーグにビルごと押しつぶされる

登場 『ウルトラマンダイナ』第27話「怪獣ゲーム」